Seiryu Voice
投稿日:2025.08.06
岐阜の町工場の企み in 双葉。世界へ!未来へ!

岐阜県安八町に本社を構える「浅野撚糸株式会社」は、世界唯一無二の技術で開発した自社ブランド商品「エアーかおる」をヒットさせた撚糸製造会社です。代表取締役社長の浅野雅己さんが学生時代を過ごした福島県双葉郡双葉町に、震災後、灯りをともしたいという想いで新工場「フタバスーパーゼロミル」を建設し、複合撚糸の技術で世界へ日本の技術を発信しています。浅野撚糸株式会社のこれまでの経緯と今後の展開について、浅野社長にお話を伺いました。

浅野撚糸株式会社 代表取締役社長 浅野雅己
――過去に倒産の危機があったと伺いました。どのようにして乗り越えられたのでしょうか?
浅野社長 2000年代、安価な海外製品に市場を奪われ、仕事が激減し倒産の危機に陥りました。事業存続のために、やむを得ずリストラや協力工場との契約解除を行ったことは、今でも苦い記憶です。
下請けから脱却するために三つの戦略を立てました。
1. 世界唯一無二の技術
2. 最終製品
3. ブランド化
最初の世界唯一無二の技術は約3年かけて開発しました。綿糸と水溶性の糸を撚り合わせ、水溶性の糸だけを溶かすことで通常の1.6倍に膨らむ特殊撚糸「SUPER ZERO®」です。
「マイナスからプラスへ」という想いを込めて開発したこの糸で最終製品であるタオルを作り、営業に奔走しましたが、当初は苦戦の連続。そんな時、築地のすし屋で妻が「いつか社員全員でこのお店に来たいね」と言ってくれた一言が、諦めかけていた心を奮い立たせました。
「もう問屋や小売店には頼らない。自分たちのブランドで勝負しよう」と決意し、メーカーとして再出発。「エアーかおる」というブランド名で高級タオルを展開すると、口コミと地道な展示会出展が奏功し、2007年の発売以降、シリーズ累計2000万枚を超えるヒット商品に。業績もV字回復を遂げました。

「エアーかおる」ブランドロゴ

エアーかおる エクスタシー

エアーかおる ベビマム
――福島県双葉町へ進出された背景を教えてください。
浅野社長 2019年、経済産業省の「繊維の将来を考える会」のメンバーとして、福島県・双葉町の復興策に関わる機会をいただきました。帰還困難区域の解除に伴い、住民の雇用創出を目指す企業誘致が進んでいたこともあり、私自身、学生時代を福島で過ごしたご縁と、震災時に何もできなかったという悔いから、現地を訪れました。
日が沈んでも明かりの灯らない街並みを見て、「この町にもう一度命を吹き込む力になりたい」と強く思い、進出を決意。何もなかった中野地区に、新工場「フタバスーパーゼロミル」を建設しました。
現在は、復興への強い想いを持った地元出身の若者たちも多く働いています。
見学に来た高校生から新入社員に「復興とは、あなたにとって何ですか」という難しい質問がありました。女子の新入社員はとまどいながら答えました。
「復興は私がここにいることです」

双葉スーパーゼロ ミル 外観 上空より

双葉スーパーゼロ ミル 工場内

双葉スーパーゼロ ミル 工場内

双葉スーパーゼロ ミル 1Fショップ

双葉スーパーゼロ ミル 2Fショップ(アウトレットルーム)

双葉スーパーゼロ ミル 1F KEYS CAFE
●双葉スーパーゼロ ミル (福島県双葉郡双葉町)
――今後、世界に向けた展開についてのビジョンを教えてください。
浅野社長 目指すのは、複合撚糸という日本にしかない高度な技術を、世界のハイメゾン(高級ブランド)に向けて発信することです。
海外との接点がなかった私たちにとって、世界的テキスタイルデザイナー・梶原加奈子さんとの出会いは大きな転機でした。
2022年12月からは、梶原さんと共同で南青山にサロン型ラボストア「SUPERZEROLab(SZL)」を開設し、新ブランド「アサノカナコカジハラ」を展開。当社の高機能糸「スーパーゼロ®」を用いたストールやウールインナーなど、肌ざわりに優れたアパレル・雑貨を発信しています。
SZLでの販売実績に加え、中国・杭州の高級セレクトショップ施設「B1OCK」や、ライバーによるEC販売も好調です。今後は国内外のセレクトショップにも展開予定です。
また、双葉町に設けた事業所「フタバスーパーゼロミル」は、福島と日本の繊維産業の復興、そして日本の再生を全世界に発信する拠点となっています。

SUPER ZERO Lab 店内(東京都港区南青山)

SUPER ZERO Lab 店内(東京都港区南青山)

テキスタイルデザイナー 梶原加奈子さん
――他社との協業や製品開発についても教えてください。
浅野社長 現在、タオル向けに海外5社、国内2社と「SUPER ZERO®」パートナーシップ契約*を結び、「SUPER ZERO®」を全世界に拡散しています。 さらにデニム、ニット用途など他の天然素材と組み合わせた高機能素材の開発を進めています。2026年にはタオル以外のパートナーシップ契約を含め、織物・編み地の世界市場への「SUPER ZERO®」の輸出を実現し、日本のモノづくりの底力を世界へ届けていきたいと考えています。
*パートナーシップ契約とは 年間60トン以上「SUPER ZERO®」を使用する契約です。