観光資源を広域でとらえ、
多治見市の魅力を発信
限界を決めずに実行してみる
多治見商工会議所会頭
田代正美さん
(株式会社バローホールディングス 代表取締役会長兼社長)
職員が企業スタッフの役割を担う、
伴走型の商工会議所
ーー 多治見商工会議所の取り組みについて教えてください。
田代会頭 中小企業の育成を活動の中心としています。例えば、国からの補助金や協力金などの活用法について、企業に合う支援の提案をしています。合わせて、さまざまな知識や経営計画に関する援助もしており、商工会議所の職員が企業のスタッフのように寄り添った取り組みをしています。
新型コロナウイルス感染症の流行後は、会社組織ではない個人事業主や飲食店などから、持続化給付金やその他の国の政策を利用したいが、申請方法を教えて欲しいという相談が増えました。会員になっているが、会議所をどのように利用するのか分からなかった、という方の相談がここ2年で増えたのです。コロナ禍でどのように商売をしたら良いか、という相談も増え、ネット販売の方法や補助金の相談、専門家と繋ぐ、専門家相談にも力を入れてきました。
ーー 商工会議所は昔と大きく変わってきていますか。
田代会頭 6年ほど前から、商工会議所からの指導や情報提供だけではない、ともに手を取り合いながら、いわゆる事業者とともに歩んでいく伴走的な要素を大切にしています。職員の志も高く、商工会議所の機能が今の時代に合った形になってきたと感じています。多治見市とも連携をしながら、多治見市全体の活性化につなげています。
新市街地と旧市街地、
両方の発展で「いいまち」になる
ーー 多治見市には、どのような印象をもたれているでしょうか。
田代会頭 多治見市は人口10万人強で、生活がしやすい大きさの市です。もっと人口が少ないと市外へ流出する懸念が出てくるので、ちょうどよい規模。その代わり、保守的な地域という印象もあります。そのため、外からの刺激やさまざまな人が流入することで、さらに「いいまち」になるのではないでしょうか。地元企業以外の誘致、また、ベンチャー的な要素も強くしていきたいと考えています。

多治見市駅周辺
ーー 田代さんが考える「いいまち」とは?
田代会頭 「いいまち」というのは新市街と旧市街の両方が活性化しているまちのことです。私が好きな青森県盛岡市は北上川を挟んでまちが2分されており、JRの駅前が新市街、北上川の東に盛岡城の辺りが旧市街になっています。ヨーロッパも新市街と教会を中心とした旧市街があり、どちらの都市も新市街はビジネス街、旧市街は観光地となっています。駅前開発だけではなく、文化の香りもあるまちが本当のまちと言えるのではないでしょうか。多治見市では、新市街地としての多治見駅南地区は再開発が進められており、商業・住宅一体型の再開発ビル「ミッドライズタワー多治見」が2022年(令和4年)秋にオープンします。また、旧市街地の一つとして多治見本町オリベストリートには、明治初期から昭和初期にかけて建てられた商家や蔵が残っており、美濃焼文化を感じることができます。古川雅典市長とも「いいまち」について話し合い、行政と民間で一緒に取り組んでいきましょうと話をしています。

再開発が進む、新市街としての多治見駅南地区

多治見駅前広場で開催されるマーケット

美濃焼文化を感じられる、旧市街地としての多治見本町オリベストリート

陶磁器産業が盛んで、登り窯や煙突が見られる
6市が連携し、東美濃が一体となって
推進する経済と観光
ーー 多治見市の文化的な要素について教えてください。
田代会頭 多治見市には永保寺と修道院、異なる宗教の修行場が隣り合っている珍しい地域があります。地場産業としては陶磁器があるのですが、観光客を呼び込もうと思うと、それだけでは弱いと感じています。そこで、東美濃を一つの地域として考えると、文化的な要素が多く、観光資源も人材も豊富で、商工会議所の活動も広域でとらえていくことができるようになります。市の合併は難しくても、経済的な部分で連携すれば、滞在型の観光提案ができるようになります。

虎渓山永保寺

カトリック多治見教会(多治見修道院)

多治見市モザイクタイルミュージアム

たじみ陶器まつり
ーー 東美濃が一体となり、どのような取り組みをしているのでしょうか。
田代会頭 2017年(平成29年)に、多治見市、中津川市、土岐市、瑞浪市、恵那市、可児市の6市の商工会議所が連携し、「ツーリズム東美濃協議会」を立ち上げました。行政区を超えた広域で、観光を推進していきます。現在は、東美濃の各地域にある酒蔵と、陶磁器や木工の産業が盛んな点に注目し、地酒と酒器、食と文化、のような各地域の資源を組み合わせたツアーを考え、海外の観光客もターゲットに含めながら取り組んでいるところです。1月には、在日の欧米の方向けに少人数のモニターツアーを行い、具体的なツアー内容などの検討が始められています。

ツーリズム東美濃協議会のモニターツアー
ーー 今後の多治見市、東美濃地域に期待することを教えてください。
田代会頭 多治見市は名古屋市に非常に近いことがプラスにもマイナスにもなっています。多治見市だけでは、名古屋市と対等になることができません。東美濃6市が一体になって魅力を発信すれば、多治見市はその玄関口になれると思います。中津川市にはリニア中央新幹線の駅が設置されるので、そこにも大きな期待を寄せています。希望を言えば、国際的なラグビー場を多治見市に新設するなど、世界中の人々が集まるような大きな目玉になる施設があれば、東美濃を回遊する観光を提案できます。東美濃にある文化的な要素をいかすことができたらと思います。

多治見市街地
剣道、旅から得た
「限界を決めない」こと
ーー 田代さんが熱中されていることを教えてください。
田代会頭 現在、週に2回、剣道の稽古をしています。昨日も稽古をしてきましたが、非常に面白い。剣道は65歳になってから始めました。高校生のスピードには敵わない、小学生との試合も負けてしまう。先生には「打つことよりも打たれることをしっかりやりなさい」と言われるほどです。本当に面白いので、伝統文化継承のため、青少年の育成のために、公益財団法人「伊藤青少年育成奨学会」で剣道場「漱玉館(そうぎょくかん)」を造りました。城をモチーフに江戸時代の手法を取り入れた、民間としては最高の剣道場だと自負しています。

漱玉館
ーー 最近は旅もされると聞きましたが、どのような旅を楽しまれていますか。
田代会頭 剣道ファーストで、旅はその次の趣味です。ビジネスでさまざまな都市に訪れた時、「住みたいな」と思う都市がいくつかありました。そこで、今年から意識的に同じ場所に1週間〜2週間ほど滞在する旅をしています。移動は在来線やバスに乗りながら、一人で誰にも気を使わない旅を楽しんでいます。
昨年5月は松山に2週間、ホテルに宿泊しながら、町営のお風呂に早朝から通ったり、伊集院静さんの本で紹介していた地元の割烹料理店へ出かけたり。食事に関しては、事前に本で調べた料理店へ行き、そこで店主や地元の方に他のお店を教えていただきながら、地元の味を楽しんでいます。剣道場を造る前は、敷地にどのような木を植えようか、1日神社を回ったこともありました。ハプニングもありますが、遠方へ出かけると、今まで気が付かなかったことにも気付くことができるのです。
ーー 本もお好きなのでしょうか。
田代会頭 作品の舞台になっている場所へ出かけ、そこで本を読むことを楽しんでいます。盛岡市へは宮沢賢治を勉強しようと行ったのですが、2日目には石川啄木が面白くなってしまって、啄木ゆかりの地を追いかけていました。松山では正岡子規を追いかけました。いずれにせよ、一人でわがままに、想像力を働かせながら旅をしています。
30歳頃は作家の塩野七生さんが好きで、彼女に会いたいと思ってイタリアへ行ったことがあります。ベネチアを描いた「海の都の物語」を現地で読むという、それまでの人生の中で最も贅沢な時間を過ごしました。作品に描かれている場所へ行き、その本を読むという行動が私の贅沢になっています。現地でしか調達できない、地元出版社が出した本も購入していると、帰りにはトランクがパンパンになるほどです。
ーー 経験豊富な田代さんから若い方へ、ぜひ、メッセージをお願いします。
田代会頭 「自分で限界を作らない」ことです。必要な時にやる、思った時にやることです。剣道の稽古をしていると、子どもたちが「自分は体が小さいから」と限界を決めてしまうように見受けられる子もいますが、絶対にそんなことはありません。
私は剣道を65歳になってから始めました。60歳まで運動はほとんどせず、へビースモーカーだったので、「還暦を迎えたのは運命だ、自分を超えた」と感じ、あとは自己管理で生きていくしかないと思ったのです。その時から、毎日2kmほど歩くことにしました。東日本大震災をきっかけに、日本を歩いてみようと思い立ち、京都の五条大橋から東京の日本橋まで1泊2日ずつ16回に分けて歩く経験もしました。途中、富士山を眺めたことで思い立ち、最初の登山で富士山へ行き、その後、日本アルプスも登りました。
65歳になって次に何をやろうかと考えた時、「よし、武道をやってやれ」と稽古を始めたら面白くなってしまって。きっと、90歳になっても抵抗なく何かを始めることができると思います。
■多治見商工会議所
〒507-8608 岐阜県多治見市新町1丁目23番地
TEL.0572-25-5000 FAX.0572-22-6100