「経済を中でまわし、三方よしの恵那を築く」をコンセプトに
「地消地産」、「脱・物見遊山」で恵那を活性させる
恵那商工会議所会頭
阿部伸一郎さん
(セントラル建設株式会社 代表取締役)
売り手と買い手の歯車をかみ合わせた「地消地産」の哲学
-- 阿部会頭が掲げる、恵那商工会議所のテーマを教えてください。
阿部会頭 「経済を中でまわし、三方よしの恵那を築く」です。「三方よし」とは近江商人の哲学で、売り手と買い手が共に潤い、その潤いが社会全体に及んでこそ本来の商いだという考えです。近江(滋賀県)から世界的な企業、伊藤忠、三井、高島屋、日本生命、武田薬品などが生まれていることからもこの言葉の大切さ分かります。
経済を中でまわし三方よしを実現しているまちがあります。ヨーロッパ屈指の美食のまちとして名高いスペインの地方都市サンセバスチャンがそれです。このまちが大都会のマドリッドやバルセロナと同じ料理を提供していてはサンセバスチャンがサンセバスチャンでなくなってしまいます。その為に、まちのレストランで提供される農産物、畜産物、水産物、酪農品など等のほぼ全ては、地元の生産者によって作られたものを使用することを旨としています。こうして、「食」を切り口にレストランをピラミッドの頂点に置きまち全体が潤う仕組みを創り上げています。この仕組みを機能させるカギは、「地消地産」です。決して「地産地消」ではありません。
-- 「地消地産」と「地産地消」の違いについて詳しく教えてください。
阿部会頭 「地産地消」を声高に言うと、不味くても、サービスが悪くても品質が悪くても高くても地元品を優先せよと言う売り手の理論になりがちです。そんな原理原則に反した商いが長続きする筈がありません。より良い品質のものを、より安く提供すると言う売り手の努力が伴うのが「地消地産」です。この売り手と買い手双方の歯車がかみ合って初めて地域全体に潤いが行き渡る「三方よし」が実現されます。
人口減少は恵那の様な地方都市においては極めて深刻です。定住人口1人当たりの年間消費額は130万円(総務省より)とされており、今のペースで10年間人口が減少していくと、恵那市で年間に68億の消費が減ることになります。これを解消するためには、「地消地産」を啓蒙しB to Bにおける地元間取引を活発化させることです。恵那市以外の企業と行う取引の例え1%でも市内事業所に振り替えるだけで一発逆転できるでしょう。「地消地産」の精神で恵那市の企業がどこよりもいいものを安く作れるようになれば、各地からも恵那と取引きしてくれるところが現れる。そのような理想に向かって進んでいきたいと思います。
行政と企業のパイプ役となる「ジバスクラム恵那」
-- 阿部会頭が理事長を務める「ジバスクラム恵那」について教えてください。
阿部会頭 「一般社団法人 ジバスクラム恵那」は、地域商社兼DMO法人という全国的にも稀有な法人です。DMOは外から恵那に来てもらい、経済を回す仕組みを作る組織、地域商社は恵那のものを日本中、世界へと販路を広げる組織です。出資者は、恵那市役所と観光協会で半々です。恵那市観光協会の会長の立場で、「ジバスクラム恵那」の理事長を拝命しました。観光協会は観光のスペシャリストの集まり、観光に商社機能を加えたものがジバスクラム恵那、そこに製造業や物流、建設などなど総合的な組織に膨らませたものが恵那商工会議所です。それぞれ異なる視点で活動をしていますが、ベクトルはみんな同じ方向を向いています。

ジバスクラム恵那の「アエルショップ」
-- 具体的な活動を教えてください。
阿部会頭 ジバスクラム恵那は、設立以来様々なパイプ役を演じて来ました。令和4年にオープンした「ホコグランピング恵那」はジバスクラム恵那で発案して恵那市と一緒に立ち上げました。また、ドローンで最先端の事業に取り組む株式会社ROBOZ(ロボッツ)の存在を知り、恵那市との連携協定をとりもち、ドローンを活用した地域の活性化を目指しています。全国トップクラスの企業教育を行う株式会社ICMGと恵那市の提携も仲介しました。ジバスクラム恵那は、薩長同盟の坂本龍馬のような存在です。

ホコグランピング恵那

ホコグランピング恵那のグランピングテント内

株式会社ICMGと恵那市、ジバスクラム恵那との連携協定締結式
-- 目指す、観光恵那の特徴はどのようなものでしょうか。
阿部会頭 世界遺産は世界中に1100も存在します。一度訪れたら別のところを訪れたくなるのが人間の本性です。リピーターを呼ぶキーワードは「脱・物見遊山」です。例えば、恵那には岩村藩出身の儒学者、佐藤一斎の存在があります。一斎は東大の前身となった江戸時代の「昌平黌」の塾長を務め「言志四録」を記した人物です。「言志四録」は西郷隆盛が島流しにあってから最後、命を絶つまでずっと懐に入れていた本です。こうした資源を活用した知的観光は奥が深く、もっと学びたいと思えば繰り返し恵那に足を運ばなければなりません。あそこで食べたラーメンがおいしかったとなれば、また食べに行きたいとなります。ほかにも、ボートやカヌー、ボルダリング、キャンプ、グランピングなどなど恵那には自然と共生した観光も多く存在します。「脱・物見遊山」を合言葉に、五感に訴える観光恵那を目指していきたいと思います。

佐藤一斎座像

佐藤一斎の碑文
災害時対応のために人材を確保し、閑散期は自然薯栽培で頑張る
-- 阿部会頭の会社は建設会社ですが、自然薯を栽培されているそうですね。
阿部会頭 最初から農業をやろうと思ったわけではありません。多くの土木系の建設業者は、公共事業が受注の柱でした。二十年ほど前から公共事業が激減し始め大半の業者は、リストラを進めました。しかし、弊社は全く逆の考えで人を増やし続けました。今では社員が10年前の倍以上になっています。人が増えたことにより、春先の4月~6月は人手が余る状況に陥りました。そこで、この時期に何かできるものはないか探したら、それが自然薯の栽培だったのです。

自然薯の収穫風景

収穫された自然薯
-- 人材を確保された理由を教えてください。
阿部会頭 建設業者の現場とは、山や川や道路や学校と言った地域そのものです。いざ災害と言ったときに間髪を入れず地域住民の安全、生命、財産を守るのは我々建設に関わる者の使命です。その使命達成の為には人手が必要です。だから、増員をしてきました。グループ企業の中では60歳以上の方が大勢、活躍しています。年を重ねると交通量の多い道路現場での仕事は危険になります。そのような方の働く場としての自然薯栽培でもあるのです。
仕事もプライベートもアグレッシブに活動。恵那への想いが強くなる
-- 恵那への思いが熱いように感じます。子どもの頃はどのように過ごされていましたか。また、恵那の印象を教えてください。
阿部会頭 私が小学生の頃は全校生徒約1000人もいて、とても賑やかな子どもの社会がありました。好き勝手なことをして遊んで、家なんて暗くなってから帰るような子どもでした。恵那は、素朴でギスギス感の少ないまちだと思います。JRの駅、高速道路、幹線道路もあり、リニアも来ます。災害も少なく、とてもポテンシャルの高いまちだと思います。趣味は食べ歩き、飲み歩きです。ラーメンのような気軽に食べられるものが好きです。中でも、もんじゃやきのようなたこやきを作る、土日しか開店しないたこ焼き店がお気に入りです。
-- お話の中で何人か歴史上の人物の名前が挙がりましたが、歴史はお好きなのでしょうか。
阿部会頭 歴史は好きですね。弊社の社内報「せんとらるライナー」の「読書尚友」で毎号、一冊ずつ古典を紹介しております。これまでに、尊敬する平賀源内の「風流志道軒傳」や石川啄木の「一握の砂」、アルベール・カミュの「ペスト」など、洋の東西の本を80冊近く紹介してきました。紹介する本を読むことから始め、著者の人となりを勉強する過程が楽しくて。今は松下幸之助の座右の書だった「菜根譚」について勉強しています。

セントラル建設株式会社 社内報「せんとらるライナー」
-- 講演や講師も務めているとお聞きしました。
阿部会頭 自己紹介の欄に、三度の飯より「講演」が好きと書いたこともあります。理由はやはり、テーマに向かって勉強する過程が楽しいからです。滋賀大学で3年間、講師を務め、講義と500人から600人ほどいる聴講生の採点もしました。

滋賀大学での講義を聴講する学生
-- 最後に恵那のみなさんにメッセージをお願いします。
阿部会頭 「経済を中でまわし、三方よしの恵那を築く」ために、一人一人が買い手、売り手双方の立場から、何が出来るかを問うて欲しいと思います。そうした思いを持つ人が増えてゆくことで、恵那はもっと住みやすく、もっと魅力的で、もっと素晴らしいまちになるに違いありません。
恵那商工会議所
〒509-7203 岐阜県恵那市長島町正家1-5-11
TEL.0573-26-1211
FAX.0573-25-6173