Seiryu Voice
投稿日:2024.11.10
国際化をすすめる岐阜大学岐阜県内42市町村と包括連携協定を締結し海外交流やスタートアップなどで地域のコアになる
キャンパスのグローバル化や岐阜県を含む県内43自治体全てとの包括連携協定締結を行い、地域の拠点となる大学を目指す「国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学」。吉田和弘学長にお話を伺い、具体的にどのような動きをすすめられているのか、また、吉田学長自身がどのような学生時代を送られてきたのかを取材しました。
岐阜大学が目指すキャンパスグローバル化
―― コロナが落ち着き、今年は積極的に海外へ訪問されているとお聞きしました。
吉田学長 今年は夏にウズベキスタン、9月にフランスとリトアニア、昨年12月はモロッコ、本年1月から3月には、アメリカ、インドを訪問しました。というのも、18歳の人口がどんどん減っている今、国立大学の将来を考えると、地域の若者に残ってもらう以外に、海外から優秀な学生を岐阜に招くという視点があります。コロナ禍は海外との連携が途絶えていましたが、海外の大学との交流は戻りつつあります。さらに、コロナ禍前以上に海外との連携を強化するために、この1年で、モロッコ、ウズベキスタンの大学と新たに協定書等を締結しました。
また、ダブル・ディグリープログラムの実施についても、相手国をこれまでのアジアからヨーロッパに広げています(フランス・リール大学、リトアニア・ヴィータウタス・マグヌス大学)。また、これまで連携している大学との関係強化も力を入れていく予定です。特にアメリカの南フロリダ大学とは大学各部局との連携へ拡大・強化をする予定です。海外に訪問して連携を強め、現在、50を超える大学と大学間連携を結んでいます。
特に印象に残っているのは、大学間学術交流協定を締結しているフランスのリール大学です。リール大学は統合が進んでいる総合大学で、3万人もの学生がいるスケールで、すべてのキャンパスと研究施設が地下鉄で結ばれており、都市全体が学園のようなまちでした。
―― 今後、岐阜大学には留学生が増えていくイメージでしょうか。
吉田学長 英語で学位が取れるプログラムを増やしており、2030年頃までにはおおよそ10%、800人ほどの留学生を迎えたいと思っています。将来的な研究力の強化に向けて、アジア、ヨーロッパ、アメリカなどの連携大学からたくさんの学生を迎え、地域を引っ張っていく人材を育成し、岐阜で就職してもらうことを考えています。同時に、岐阜大学の学生も海外へ派遣して、新しい知識を得て日本に戻り、岐阜の地で花を咲かしていただく「知の循環」をすすめています。今は10年、20年後の将来ビジョンへの取り組みに力を入れています。
―― 名古屋大学との統合について、現在の状況はいかがでしょうか。
吉田学長 岐阜大学と名古屋大学が統合した目的は、研究力のシナジー効果やそれぞれの優れた部分を持ち寄り、さらに高いレベルの研究を目指すことで、今、その目的が達しつつあるように思います。 現在、両大学の教養科目の共有をすすめています。令和6年度には、名古屋大学から21科目、岐阜大学から21科目の授業を受けられるところまで達成しています。
名古屋大学で開講されている同名授業の教材を共通で利用し、文系学科の学生も数理・データサイエンス・AI科目の授業を受けられることは、非常に大きなメリットだと思います。今後は、周囲の国公立大学とも連携したプログラムを構築していきます。
知見が広がる留学経験のすすめ
―― 吉田学長ご自身の学生時代について教えてください。
吉田学長 中学、高校でESSに入り、「アリババと4人の盗賊」の英語劇などに取り組んでいました。部員が少ないので、盗賊も4人でした(笑)。大学に入ってからもESSに入り、1年生の時に西日本のディベート大会で準優勝をとることができました。ところが、大学では同時に卓球部に入部したため、それ以降、ESSと卓球を両立させることが困難になり、卓球部の活動に専念しました。
―― 海外に興味はあったのでしょうか。
吉田学長 中学の時のニューホライズンの英語の教科書に掲載されていた、イギリスのハイドパーク前の赤い2階建てバス「ダブルデッカー」を見て、「これや!俺はイギリスに行くしかない!」と思いました。イギリスへの留学が中学校時代の夢で、これがきっかけになり、英語が好きになりました。その夢は持ち続けており、チャンスが来るのを待っておりました。結果、大学卒業後、医師になってからイギリス「オックスフォード大学」へ留学することができて、そこで思いを遂げることができました。
―― 留学はいかがでしたか?
吉田学長 緑が多いまちで、友達もたくさんできて、論文も書けて、非常に良い経験になりました。日本にいるときよりも、家族と過ごせる時間が長く、なおかつ業績も増やすことができました。そのため、若い人たちにも外国へ行くようにおすすめしています。できれば学生のうちに留学をして知見を広めて欲しいと思います。学生が留学をすると卒業が遅れると思われるかもしれませんが、一年遅れにならずに済む制度がありますし、留学金支援もあります。政府も2033年までに海外留学生を50万人送り出す未来構想を打ち出しています。日本の停滞した30年を科学技術でもう一度、世界のトップに返り咲けるよう国をあげて努力をしていますので、次世代を担う若者にはぜひ、頑張っていただきたいと思います。
海外連携、地域に根付いた研究、スタートアップ支援で地域発展に寄与
―― 話は戻りますが、キャンパスがグローバル化すると、岐阜のまちも変化していくと思われますか。
吉田学長 岐阜市近郊の、岐阜薬科大学さん、朝日大学さん、中部学院大学さん、岐阜医療科学大学さんなどと連携して、大学群として留学生を受け入れると、岐阜もグローバルなまちに変わるのではないでしょうか。例えば、先日訪問したウズベキスタンは親日家が多く、日本の大学を現地につくられるほどなので、ウズベキスタンからも日本へ留学生を送っていただけるかもしれません。ぜひ、まちを上げて海外の国と大学と連携できるような未来がくるといいですね。 ジョイント・ディグリープログラムに取り組んでいるインド工科大学とは、2大学で1つの学位を学生に与え、地域の企業に就職していただき、さらに、岐阜とインドの企業連携をしましょうということで、動いています。岐阜大学が人の交流、観光の交流、産業の交流のコアになり、岐阜に貢献していきたいと思います。
―― 海外の方にPRできる岐阜の良さを教えてください。
吉田学長 岐阜には海外の方に勉強していただきたい大きな3つの強みがあります。1つは大学の研究力です。柴橋岐阜市長もおっしゃっていることですが、岐阜大学の近くに高速道路のインターチェンジができると、岐阜薬科大学さんを含めた黒野地区を学術・研究拠点、ライフサイエンス拠点にすることができます。2つ目は、ものづくりです。東海地区はトヨタ自動車、川崎重工業、三菱重工、SUBARU(スバル)などの製造機器メーカーがあり、ものづくりが非常に強い地域です。最後3つ目は、さまざまな環境エネルギーが揃っていることです。森林、自然、火山に関連した地熱エネルギーなど、学んでいただきたい岐阜の強みがたくさんあります。
―― 留学生の暮らしの支援に関してはいかがでしょうか。
吉田学長 海外からの留学生が日本語を勉強するシステムとして、大学の中に「日本語・日本文化教育センター」を設置しています。日本語や日本の文化を学ぶことで地域の方と意思疎通ができますので、地域の企業に就職していただき、地域を引っ張っていただければと思います。岐阜県にも「日本語学習支援センター」が開設されましたので、いわゆる多文化共生に関して、私たちも貢献できるのではないかと思っています。
―― 話は変わりますが、吉田学長のお好きな岐阜の食べ物はありますか。
吉田学長 飛騨牛です。若い時はステーキでしたが、最近はしゃぶしゃぶもいいですね。すでに飛騨牛のおいしさは世界にアピールされていますが、口の中でとろけるようなお肉が育てられるのは岐阜の誇りです。岐阜には鮎もありますし、ブランド米もあります。岐阜大学では、このような岐阜のいいものをグレードアップさせていく取り組みもしています。
―― 具体的にお聞かせください。
吉田学長 岐阜大学の目指すべき姿に「ぎふのミ・ラ・イ・エ」構想「Migration・Laboratory・Innovation・Education」を掲げています。これは、ラボラトリーでイノベーションを起こせば、人がどんどん、企業がどんどんマイグレーション(移住・移転)を起こして、高いエデュケーションレベルにつながる、という好循環をつくる取り組みです。未来(ミ・ラ・イ・エ)構想では、岐阜の強みである「産業・まちづくり」「ものづくり・食づくり」「医療づくり」「人づくり」に取り組んでいますが、特に「食づくり」は大変重要なコンポーネントとなっています。 例えば、「岐阜大学応用生物科学部附属岐阜フィールド科学研究教育センター」の美濃加茂農場では、JAさんが飛騨牛の子牛を育て、岐阜県は飼育農家を集め、私たちは飼育に関する研究内容を教える、といったように岐阜県と一緒に飛騨牛の生産と飼育農家の支援をしています。また、脂が苦手な方にもおいしく食べられる赤身の肉を開発中ですし、温暖化が進んでいく中、気温が高くてもおいしく育つような日本特有の米の開発を手掛けていくことも考えています。応用生物科学部は流通や食品保存に関する技術研究がすすんでいますので、海外にも貢献していきたいと思います。
―― 岐阜のものづくりに関してはいかがでしょうか。
吉田学長 ものづくりの技術は商品化や実用可能までに、基礎研究、イノベーションギャップを経て、社会実装、社会実証へと進んでいくわけですが、実証に向けてのスタートアップやベンチャー企業の育成支援を名古屋大学と一緒に行い、岐阜地域へ貢献していきたいと思います。
―― 実際に起業される学生もいらっしゃいますよね。
吉田学長 岐阜大学には、東海地域初の大学公認の「起業部」があります。起業部は東海地区の大学関係者でつくる起業家育成プロジェクト「Tongali」のコンテストで最優秀賞を受賞したこともありますし、全国大会で文部科学大臣賞を受賞したメンバーもいます。起業部部長であった長曽我部竣也さんは世界で活躍する若手人材を選ぶ『FOBES JAPAN 30 UNDER 30 2023 日本発「世界を変える30歳未満120人』に選ばれています。現在、岐阜大学発のベンチャー企業は40近くあり、活発に活動しています。 長曽我部さんが代表を務める「FiberCraze(ファイバークレーズ)株式会社」は工学部の武野教授が発明した特許を活用し、在学中にスタートアップさせた企業です。繊維に開けた穴に殺虫剤を注入して虫除けTシャツになるような技術をもっています。もともと、キャンプのテントに利用して東南アジアやアフリカに多い蚊による伝染病、マラリアとかデング熱といった致死的な感染病を減らしたい、という思いから立ち上げられました。
―― みなさんが学生ベンチャー企業を応援できるといいですね。
吉田学長 投資家の方に応援いただけるよう「Tokai Open Innovation Complex岐阜(TOIC)」を立ち上げました。東海の産学連携の拠点として、施設名はネーミングライツで大垣共立銀行さんに入っていただき「OKB岐阜大学プラザ」としました。 さらに、地域の若者や大学の起業家のスタートアップを活性化させる目的で、岐阜県が主導し、岐阜県商工会議所連合会会長の村瀬幸雄さんを会長に、私が副会長になり「ぎふスタートアップ支援コンソーシアム」が立ち上がりました。技術発展に寄与していきたいと思います。
―― 岐阜の将来的な展望はいかがでしょうか。
吉田学長 明るいと思います。人口減の食い止めや地域の産業の発展は地域の国立大学が中心となり、周囲の国公立の大学と一緒に力を合わせることで、若者に集まってもらうことができます。そして、集まった若者がその地域で職を見つけられる環境をみんなでつくる。その中心になるのが岐阜大学だ、という使命感をもってさまざまな事業に取り組んでいます。 岐阜大学は岐阜県を含めた県内43自治体全てと包括連携協定を締結しました。地域で活躍、貢献できる大学を目指していますので、 岐阜の未来を明るくするお手伝いが一緒にできればと思います。18歳から24歳、大学院も含むとおおよそ30歳まで、大学は最も若者を集められるツールです。ぜひ、地域の企業も自治体も大学を利用していただき、働く場所をつくっていただき、若者が岐阜に残りたくなるような魅力をつくっていきましょう。海外の若者にも来ていただいて「知の循環」を起こすことができれば、と思います。 高山市、中津川市、岐阜市とは、「ぎふ地域創発人材育成プログラム(SPARC-GIFU)」という事業で連携して、それぞれの地域を学生の学びの場として活用させていただき、実習と講義を繰り返す往還型教育を展開しています。
―― 岐阜大学周辺のライフサイエンスエリアの展開もできますね。
吉田学長 高速道路のインターチェンジができる岐阜大学周辺を工業団地や学園都市にして、岐阜駅や中心市街地を電気自動車で繋いで巡回する案もいいですよね。医療関係についても、医療センターであるとか市民病院、県病院、これらを電気自動車で巡回してつなげることで、人数に限りがある医師も共有できる時代が来ると思います。
若者には、夢をもって生きてもらいたい。岐阜大学出身者も大勢、活躍中。
―― もう一つ、最近の話題といえば、「パリ2024オリンピック競技大会」の男子走高跳で赤松諒一さんが活躍されましたね。
吉田学長 一生懸命走高跳に邁進して、オリンピックの日本代表、しかもオリンピックという晴れ舞台で自己最高記録を出せる、このような若者を輩出できたのは岐阜大学にとって、大変な誇りです。赤松選手はスポーツのメカニズムに関する研究をするために本学の医学系研究科で研究をしています。その集大成が結果につながったのだと感じています。 このように、岐阜大学出身者が各界で頑張っていますので、岐阜大学の学生もOBOGも、岐阜大学に愛着、愛情をもっていただき、また、地域からも応援いただけたらと思います。
―― 最後に、若者へのメッセージをお願いします。
吉田学長 夢をもって、ぜひ、頑張って生きてもらいたいと思います。私はイノベーションパークを大学の将来像として抱いています。先ほどのような学園都市や工業団地、大学病院を中心にした地域一体型の医療体制を整えて、若者と高齢者が共存して豊かに暮らせる岐阜でありたいと考えています。そのためにも、若者が夢をもって将来に向かって生きられるような大学でありたいと思います。
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
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