太陽がまぶしくて、
おいしい食材とお酒が揃う
高山市の魅力を伝えていく
高山商工会議所会頭
北村斉さん
(日進木工株式会社 代表取締役 会長)
観光地、木工産業の学びの地として、
全国、世界から集まる地域
ーー 高山市にはどのような印象をおもちでしょうか。
北村会頭 21世紀に入ってから全国や世界から大変、注目され、観光客が増えました。県内の美濃地方の方々から羨ましがられましたが、美濃は長年、ものづくりに長けており、織田信長が天下をとって全国とつながりました。販路が広がったことで、美濃の産業は発展しました。
ところが、飛騨高山は四方を峠に囲まれているため、美濃のような恩恵はありませんでした。その代わり、丁寧なものづくりを大切にしてきたためか、古い街並みに代表されるように、文化の蓄積が熟成されています。そこが、多くの観光客に支持されたのではないでしょうか。

高山市の古い町並み。
ーー 居住地としての環境はいかがでしょうか。
北村会頭 私は大学4年間を愛知県で過ごし、その後、東京に2年半の修行に出ました。高山に戻ってきて、改めて高山の良さを感じたのですが、さらに50年ほど高山で過ごしていると、だんだん良さが分からなくなっていました。ある時、東京の方から「高山がうらやましい。太陽の光が眩しい、野菜が非常においしい」と聞いた時、高山の良さが当たり前になっていたのだと気付かされたのです。完熟トマトが食べられるなど、この環境の良さを高山市民、みなさんで共有できたら人口減少を止めることができるのでは、と思います。

高山の夏の特産物、トマト。
ーー 地元に残る若者はいらっしゃいますか。
北村会頭 残念なのは、若者が高校を出て、大学へ進学し、その8割が高山に戻ってきていないことです。そのため、若者に戻ってきてもらうことが今の高山市の課題の一つにもなっています。ただ、木工に関しては県外出身者の若者が増えています。弊社(北村会頭が代表取締役会長を務める日進木工株式会社)の社員も約4割が県外出身者です。弊社以外にも、県外の大学の卒業生が木工デザインや技術、建築を学びたいと、全国から来ていただいています。ここで木工について学び、独立していく人もいます。
このように、高山市の強みは木工にもあり、県外の方の方が魅力を感じていただいています。小学校で木工工場の社会見学を実施していますが、若者にもっと高山を魅力的に感じてもらえるよう、私たちが努力をしないといけませんね。

飛騨飛騨春慶

飛騨の木工家具(写真提供:日進木工株式会社)
今後の観光客増加を見込み、
既存飲食店などの事業継承を応援
ーー 高山商工会議所では高山市活性化のために、どのような取り組みをされていますか。
北村会頭 会員から行政への要望を吸い上げ、年に一度、高山市の幹部と討論会をしています。2021年(令和3年)は初めて市議会議員のみなさんとの懇談会も行いました。これらの取り組みはひとえに、「高山市をより良くしたい」という気持ちから。意見交換をして、手に手を取り合い、高山市を盛り上げていきます。また、各団体で行うイベントのバックアップも行なっています。
ーー 人口減少に関しては何か対策をとられていますか。
北村会頭 事業承継を銀行さんや行政と含めて展開を深めています。観光の例を挙げると、2016年(平成28年)には、ホテル数65施設、ベッド数2577室、6462人収容可能だったところ、2024年(令和6年)にはホテル数77施設、ベッド数4069室、9055人収容が見込まれています。用地買収や建築計画分のホテルも含めての予定数ですが、これほど観光客を受け入れられるスペースがつくられることになっています。
しかし、収容人員は増えるけれど働き手がおらず、人手不足が予想されます。ホテルの宿泊形態のほとんどが朝食のみになるため、昼食や夕食をとるレストランも不足すると予測されます。まちなかを歩くと、ラーメン店は増えていますが、毎食、ラーメンというわけにもいきません。飛騨牛などが食べられるようなレストラン、料理店の新規出店は多くありません。
ーー 既存のレストランや料理店はいかがですか。
北村会頭 昔は市内の料亭で修行をして独立をする、という方が大勢いました。そうした方がみなさん、後継者がいない状態で年齢を重ねているので、10年、20年先には廃業されてしまう可能性が十分に考えられます。宿泊スペースが増えて、観光で盛り上がっていこうとしても、おもてなしができなくなってしまうのです。土地はある、建物はある、設備もあるのに、もったいない。
そこで、高山商工会議所では事業承継という形で、お店をつぎたいという市外の方、県外の方の相談にのり、支援しようと積極的に取り組んでいます。もちろん、新規オープンを希望される方も大歓迎です。東京と比べて家賃も安く、空き家や空き店舗もありますし、高山の知名度は抜群にあるので、全国展開していきたいと思う方はチャンスです。高山で商売したいと思われている方を商工会議所では応援しています。

飛騨牛料理。
高山の環境の良さを当たり前と思わず、
魅力と感じられるように
ーー 北村会頭は飛騨の家具を製造する木工会社の3代目ですが、どのように事業継承されたのでしょうか。
北村会頭 もともと祖父が飛騨で呉服商を営んでいたのですが、戦後、高山と言えば木工、ということで、末っ子だった父と祖父が2代同時創業で木工会社を立ち上げました。今年で76年目、歴史は長いけれど、紆余曲折がありました。小さな頃の私の遊び場は木工工場で、三輪車でぐるぐる走り回っていました。おそらく、従業員からは迷惑がられていたのではないでしょうか。当時は木工への意識はなく、今思うと、これが当たり前の日常だったのかと思います。
大学では経営工学を学び、修行のため、家具問屋に就職し、百貨店に2年半勤めました。そこで、いろはのいの字を勉強させてもらいました。毎日、売り場で家具を見ていると、百貨店に並んでいる家具と、その頃の飛騨の家具との違いを感じることができました。当時の飛騨の家具は1日に1500本も製造する大量生産の家具でした。問屋で販売を経験したことで、家具、木工についてたくさん学ぶことができました。
ーー プライベートではどのようなことをされていますか。
北村会頭 今は人口減少のうえ、それぞれの趣向が異なる時代。どのような商品が好まれるのか、売れるのか、経営者は365日、休みなしで常に会社のこと、経営のことを考えています。悩みのない経営者はいないでしょう。休み方のコツは長年の経験でつかんでいます。おかげさまで、私はお酒が好きなので、毎日の晩酌で心を休ませています。
ーー どのようなお酒を飲まれますか。
北村会頭 私は地酒しか飲みません。飛騨高山の酒ならどんなものでもおいしい。造り酒屋も地域に12軒あります。岐阜のお客様からは、高山の刺身がおいしいと言われます。観光地がゆえに、富山の市場からも名古屋の市場からもおいしい魚介類が届くからだと思います。高速道路ができたおかげです。

飛騨高山の地酒。
ーー 高山は各地との交通アクセスが良いですね。
北村会頭 隣接県の都市では、富山、金沢、松本へ2時間で行くことができます。2026年(令和8年)には、中部縦貫自動車道が福井まで、また、東海環状自動車道もつながります。中部地区の真ん中にあるのが高山です。アクセスが良くておいしいお酒もおいしい食材もある、観光でも、事業展開でも多くの方に集まっていただきたいと思います。

高山市街地と乗鞍。
ーー 最後にみなさんへメッセージをお願いします。
北村会頭 高山は空気が澄んでいる。食べ物も美味しい。飛騨弁で言うと「おひとよしが多い」まちでございます。非常に人々が暮らしやすいこと請け合いです。多少、冬は寒いかな、という思いはありますけども、ぜひ、高山で商売をしてみたい、働きたい、と言う方はぜひ来ていただきたいと思います。
■高山商工会議所
〒506-8678 高山市天満町5丁目1番地
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FAX.0577-34-5379