夢をもって行動し、他にはない魅力・財産を磨き上げる
中津川商工会議所会頭
杉本潤さん
(美濃工業株式会社 代表取締役社長)
先人が築いた中津川の文化
・歴史を磨き上げるのが私たちの役目
-- 中津川市の特徴を教えてください。
杉本会頭 中津川市は街道文化のまちです。山に囲まれた立地のため、江戸時代、中山道を行く旅人は必ず、中津川宿、落合宿、馬籠宿のどこかで一泊しました。そのため、衣食住に必要なものがここに集められ、特徴的な文化や芸術、食が生まれました。また、多くの人脈が生まれ、非常にポテンシャルが高い、他と差別化できる文化が育ってきた歴史があります。
さまざまな人が集まる中で、熊谷守一、前田青邨といった芸術家、島崎藤村などの作家も誕生しました。繊維、製紙、電気、自動車部品関係などの工業製品の製造も盛んに行われています。先人が築き上げた財産の価値を高めるために、私たちは本物磨きをしなければいけません。中津川の特徴を観光資源にするなど、差別化できるまちづくりが必要です。

中津川宿

夜の中津川宿

馬籠宿

落合宿本陣
-- 具体的には、どのような財産が観光資源になりますか。
杉本会頭 世界的な観光ガイドブック「Lonely Planet(ロンリープラネット)」で馬籠宿・妻籠宿が紹介されたことで、京都、富士山に並び、欧米圏の旅行者が大勢、馬籠宿にも訪れてくださいます。新型コロナ感染症が流行する前は年間40〜50万人の外国の方が観光してくださいました。BBCワールドニュースで中山道の馬籠の峠越えが放送された後は峠越えの方だけで2万人。なぜ、人気があるのか考えると、きっと、Tシャツ1枚で山の中を超えることができるからではないでしょうか。着の身着のまま山中を歩けるのは世界でも珍しいことです。これをぜひ、アピールしていきたい。私たちが当たり前だと思っていることを世界では魅力に感じてくれる、それに気がつくことで、多くの方に喜ばれる観光資源を作ることができるのではないでしょうか。
ほかにない発想で、まちの活性化を目指す
-- 中津川市には、リニア中央新幹線岐阜県駅が設置されますが、これについてはいかがでしょうか。
杉本会頭 リニアの駅は中津川市を越えた周辺地域の拠点となります。都市機能が発達している多治見市、大型ショッピングセンターができる土岐市など、さまざまな姿の街が点在する東美濃全体の駅になるはずです。もっといえば、下呂市、飛騨高山の玄関口に、岐阜県全体の駅として活用することを考えなければいけません。
リニア中央新幹線岐阜県駅を中津川に止めていただいた、というイメージです。先人が作り上げた歴史、街道文化、環境、立地といったさまざまな条件が揃っていたからこそ駅の設置が決まったのではないでしょうか。たくさんの方に喜んでいただくために、使い勝手の良い駅、他のリニア駅とは異なる駅にできるよう考えなければいけません。東美濃全体で経済連携しながら、リニア駅があるまちづくりを提案していきます。
-- 杉本会頭が思い描くリニア岐阜県駅の活用法は?
杉本会頭 インバウンドの観光客を考えたら、日本のお土産が購入できるように、中津川のリニア岐阜県駅に日本全国のおみやげを集めてもいいのでは。また、岐阜県ナンバーの車は駐車料金を1日無料にしたら大勢が駅を利用することができます。突拍子もない案かもしれませんが、そういう発想が大事だと思います。駅に他にはない魅力をつけたら、人はわざわざ足を運んでくれます。「駅をつくる」ではなく「魅力をつくる」ことで活用していきたいと思います。

リニア中央新幹線
-- たいへん興味深い発想だと思います。
杉本会頭 弊社ではMaas(※1)の研究を行っていることから思い浮かんだのですが、周辺エリアを見ると、飛行機製造をしているエリアがあり、自動車製造をしているエリアがあり、そして、中津川市にはリニア新幹線が通るようになります。そうすると、世界が注目する移動手段の拠点をトライアングルで結ぶことができます。これを産業界をはじめ、観光資源に活かすことができるのでは。ゆくゆくは自動運転、空の移動が当たり前になります。こうした世界が来ることを意識していないと、ジャッジが遅れる可能性があります。
また、岐阜には世界遺産の美濃和紙、世界に誇る関市の刃物があります。インバウンドのみなさんをお迎えするのに、これらをせっかくのリニア岐阜県駅に置かない手はありません。中津川市の栗きんとんを活かして、伊勢のおかげ横丁のような「菓子街道」を作ることも面白いのではないかと思います。観光協会が取り組んでいる「栗きんとんめぐり」が毎年、大好評なので、街道を歩きながら食べ比べする観光もきっと楽しんでいただけるはずです。一人ではどうにもできない考えばかりですが、夢があるんですよ。
※1 Maas・・・一人一人の移動ニーズに対応して、複数の公共交通などの移動サービスを最適に組み合わせるサービス。大阪万博での活躍が期待されています。

栗きんとんめぐり
-- 中津川の文化には、音楽の歴史もありますね。
杉本会頭 1969年から3年間、日本初の野外フェスティバルと言われる「全日本フォークジャンボリー」が椛の湖の湖畔で行われました。2013年からは100%ソーラーエネルギーを使ったロックコンサート「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」が行われています。どちらも最初は開催に対して周囲からの反対がありました。反対はありましたが、今では由緒ある野外コンサート、知名度の高いコンサートとなり、他と差別化できる、独自の音楽コンサートとして全国に知られています。何かをやろうとする若者に対して、年配者が「やってみなさいよ」と言える器量がないといけません。前例がないからと認めないままでは、進化はしません。過去の物差しでものごとを考えると日本は衰退してしまうのではないでしょうか。まちづくりもちょっと視点を変えてみること、鳥瞰的にまちを見ることが大切です。

中津川 THE SOLAR BUDOKAN
市民のためのまちづくり、
会員のための商工会議所
-- まちづくりや商工会議所の活動に関してはどのような考えをおもちでしょうか。
杉本会頭 今、大事なことは時代が変わっているということ、昔と違って、日本の立ち位置、地域の立ち位置が大きく変わっているということです。それを感じながら行動しないといけません。まちづくりは誰を対象にしたまちづくりか、会議所は誰のための会議所か。商工会議所のことで言えば、開かれた会議所にし、会員のみなさんが何を求めているか知ることです。会員さんに喜んでもらえることで、まち全体が活性化していくでしょう。
-- これからのまちづくりに関してお聞かせください。
杉本会頭 2016年の会頭就任後、まず、中津川商工会議所の目標管理、ロードマップ作りをしました。企業はみなさん夢をもって目標管理をしますよね、それと同じことです。例えば、目標の一つに会議所の会員数を1800に掲げて活動し、無事、達成することができました。まちづくりに関しても、行政に全てお任せするのではなく、民民(民間同士)でさまざまな形をつくりながら、まちづくりを進めていくのも一つの手ではないかと考え、会員、市民と一緒に進めています。
これからは中津川のブランディングを進めていきます。歴史、文化、自然など、中津川には特徴的な財産が豊富にあります。みなさんから情報をいただきながら、財産をどのように磨き、活かしていくのか。富士山にはさまざまな登山道がありますが、頂上はひとつ。目標を示し、みんなで同じ方向を向いて達成を目指します。
-- 中津川商工会議所といえば、令和4年1月まで行われた「中津川市プレミアム付商品券 地元のお店応援 大抽選会」が話題になりましたね。
杉本会頭 この企画のアイデアを提案したのは、会議所の若手職員です。若い方の発想を採用したら大好評で。51インチのテレビが当選するなど、総額400万円相当の商品が当たる企画でした。地元のお店でプレミアム付商品券を使用していただき、受け取った応募はがきで参加していただくのですが、応募はがきを8万枚配布して、3万通の応募をいただきました。応募は、はがきに必要事項を記入し、切手を貼ってポストに投函する、という手間がかかるものでしたが、参加者は切手をわざわざ貼って投函してくれたのです。この企画に共感し、切手と時間を投資して参加していただいた、という気持ちが嬉しく思いました。
-- 職員さんのアイデアが大成功した良い例ですね。
杉本会頭 新型コロナ感染の流行後は各種制度や助成金等の申請方法に関することなど、会員からの相談が増え、頼っていただける会議所になったと感じています。相談件数が増えましたが、職員は相手の立場になって考え、丁寧に対応していました。これも嬉しいことです。

中津川市プレミアム付商品券 地元のお店応援 大抽選会の様子。
人を信頼し、働いてもらうことで
業績があがる
-- 杉本会頭が代表取締役社長を務める美濃工業株式会社はいかがでしょうか。
杉本会頭 弊社の社員も頑張っており、いろいろな提案をしてくれます。そのおかげで会社の業績が上がり、私はその恩恵を受けている、と思っています。社員のみなさんの働きがあるからこそ、私は給料をいただけているのです。社長という立場なので、判断、承認こそしますが、業績をあげているのは社員です。私は皆さんを信頼して仕事を任せられることができています。「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」というキーワードがありますが、私は「めいかんえん(命令・解説・援助)」をキーワードにしています。明確な命令を受けること、行動するための解説をすること、上司から与えられる(予算など)援助があることで仕事を的確に進めることができます。これにより、社員の声を汲み上げることができるのです。
-- 中津川市で働く外国人労働者についても教えてください。
杉本会頭 中津川市には技能実習生や在留資格「特定技能」の外国人労働者が大勢いるため、外国人と向き合いながら生活することを大切にしています。外国人労働者が大勢いる背景には、中津川市とブラジルのレジストロ市が姉妹都市としてお付き合いしてきた歴史があります。以前から警察と連携をとりながらブラジル人労働者を受け入れ、彼らの生活のしやすさも保障しています。もし、外国人労働者が不安を感じて日本からいなくなってしまったら、製造工場は海外に作られるでしょう。どんどん日本の企業が海外へ流出してしまう可能性が出てきます。彼らに長く、日本で働いてもらうためにも、生活が保障されないといけませんし、単身ではなく家族で暮らせるよう、国や政府に働きかけています。
夢のある目標をもち、失敗を恐れず、
経験値を上げて欲しい
-- これからまちづくりに携わっていく若い方に、メッセージをいただけますか。
杉本会頭 「夢を持って行動する」これしかありません。歴史や文化も大事ですが、過去の経験値は先輩から教わることができます。私と若い方が同じ70歳まで生きるとしたら、私の年齢分の70という経験値を若い方が20歳で得ることができたら、残り50歳分は新しい経験ができます。
その結果、自分は何をしたいのか目標を立てること、それが一番大事なことです。目標を立てたら何をすれば良いか、何をすればいいのかが分かったら行動すること。もし、失敗したとしても、失敗から大きな経験を得て、それを糧にして動けばいいのです。
-- 杉本会頭も失敗の経験はあったのでしょうか。
杉本会頭 失敗を失敗と思わず軌道修正すれば、それは失敗ではないんですよ。一般的な失敗と言われると、私はいくらでもしていますが(笑)。
学生時代はそれこそ音楽、フォークロックをしていました。みんなが集まって歌うことが、あの時代では日常茶飯事でした。そうした日常を過ごしながら、私は学生の頃からいろいろな人と喋り、さまざまな経験を得てきました。失敗は人生の肥やしにしています。その頃の仲間とはまだ付き合いが続いていますし、人脈も人生には必要だと思っています。
-- 行動すること、経験することが大事なのでしょうか。
杉本会頭 若い方にはさまざまな考えをもてるように、また、夢のある目標を立てられるように、さまざまな経験をして欲しいと思います。例えば、グローバル化と言っても、実際に世界のことを知っていなければグローバル化について語れません。実際に行って、見て、空気を感じることが大事です。
中津川商工会議所の次の目標に中津川のブランディングを掲げましたが、一流を知らないと、どのようにブランディング化していけば良いのか、分からないと思います。例えばミシュランに認定されるようなレストラン・料亭の味やおもてなしを知らないではブランドを語れません。一流とは言わずとも、さまざまな経験、学び、遊びを通して、行動して欲しいと思います。
■中津川商工会議所
〒508-0045 岐阜県中津川市かやの木町1-20
TEL.0573-65-2154
FAX.0573-65-2157