知られざる美濃市の魅力を発信、新しいアイデアも取り入れる

美濃商工会議所会頭
松久豊太郎さん
(大福製紙株式会社 代表取締役社長)

まちを発展させた紙漉き文化

-- 美濃市の紹介をお願いします。

松久会頭 自然、歴史、文化が中心となったまちです。市域の80%を占める山林があり、清流長良川と板取川が流れており、原料が手に入りやすかったことから、紙漉き文化が根付いた地域です。また、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されているうだつの上がる町並みもあります。

-- うだつの上がる町並みはうだつが残っていますし、道幅が広いなどの特徴がありますが、理由はあるのでしょうか。

松久会頭 うだつの上がる町並みは高山の古い町並みと似ていると思いませんか。町を整備した金森長近公はもともと、飛騨高山藩初代藩主だったためです。長近公は関ヶ原の合戦で東軍につき、美濃郡上八幡城攻めなどの論功行賞として、美濃国武儀郡(関市上有知)を受け渡されました。その後、小倉山城を築きました。それまで、長良川の氾濫によって、何度も被災を受けたので、高台となる現在の場所に町を移したようです。さらに享保8年(1723年)、町全体が大火に見舞われました。これを機に、火災が起きても燃え広がらないようにと復興時に道幅が広げられたと聞いています。町の象徴ともなっている防火壁「うだつ」が多数残っていることも、全国的には珍しいことです。

うだつの上がる町並み

うだつの上がる町並み

-- やはり、紙産業が町の発展を支えたのでしょうか。

松久会頭 そうですね、かつては板取川の流域に漉き屋さんが千軒ほどあり、地域全体を見ると、問屋さん、原料や道具を作る人など大勢が紙に携わっていました。長近公は上有知の川沿いに川湊を造り、そこを物資運搬の玄関口としました。長良川を使って紙はもちろん、生糸や酒などを岐阜まで運び、まちを発展させてきたのです。
江戸時代には美濃和紙は軍配に使われるなど、幕府から手厚い保護を受けていました。障子紙としても幕府に納入されたことにより、美濃和紙は全国に広がっていったそうです。弊社も、もともとは紙問屋が始まりで障子紙を大量に扱っていました。美濃紙を選別して等級に分けて販売するなど、品質管理を徹底させたことで信用を得てきたそうです。
明治時代は、美濃和紙で作った花を飾る「花みこし」の練り歩きが始まったり、町名を「美濃町」に改称したり、紙産業は最も勢いがあった頃ではないでしょうか。船運だけでなく、馬車やチンチン電車(名鉄の路面電車)で物資を運んでいた時代もありました。

-- 本美濃紙は国指定重要無形文化財、手漉和紙技術はユネスコ無形文化遺産に登録されていることについてはどう思われますか。

松久会頭 国や世界に認められるということは、本美濃紙は質が良いということではないでしょうか。非常に薄くて均一なので、美術品の修復紙として海外の美術館で使っていただいています。また、2020東京オリンピック・パラリンピックの表彰状として、国産100%楮で漉かれた美濃和紙が採用されました。とても誇れるべきものです。
一方で、手漉きに必要な道具を作る職人が減少し、天日干しに使うトチノキやイチョウの一枚板も手に入りにくい状況があり、誇れる文化を残す方法を考えることも必要になっています。そうした中でも、市外から手漉き職人として入ってきてくれる若者が増えているのは嬉しいことです。彼らはさまざまなアイデアを出してくれるので、誇れる文化、技術を後世へとつないでいこうと思うと、新しい方向へ向かっていかなければならないのかな、と感じています。

本美濃紙

本美濃紙

手漉き風景

手漉き風景

歴史遺産めぐりの散歩をしながら、美濃市の良さを再確認

-- 松久会頭が日課にされていることはありますか。

松久会頭 昼休みの時間を利用して散歩をしています。美濃橋を渡って長良川沿いに歩き、曽代用水や川湊灯台(上有知湊)の横を通り、小倉山トンネルを通って戻ってきます。

美濃橋

美濃橋

美濃橋と長良川

美濃橋と長良川

川湊灯台

川湊灯台

-- 名所ばかりですが、見どころポイントを教えてください。

松久会頭 美濃橋は大正5年に施工された、現存する日本最古の近代吊橋です。歴史的価値の高い近代建造物として、国の重要文化財に指定されています。曽代用水は世界かんがい施設遺産に登録されている農業用水です。3名の私財が投じられた17kmもある用水で、工事が難航して10年かかり、1663年に完成しています。曽代用水のおかげで農業のみならず防火用水や地域用水として、地域住民の恵みの水として活用されたそうです。
川湊公園には川湊灯台があります。先ほど述べた、金森長近公が整備した川湊にある灯台で、県の重要文化財に指定されています。川湊灯台の横にある碑には、文豪 頼山陽と地元の文人 村瀬藤城が交わした詩が描かれています。小倉山トンネルは大正4年に造られた、手彫りのトンネルで、岩盤をくり抜いて掘られた跡が見られます。
ぐるっと回ってだいたい30分。美濃市の魅力が詰まった最高の散策コースではないでしょうか。歴史を感じることができて、四季の風景も楽しめる。川沿いで過ごす方の遊び方の移り変わりも感じられます。

曽代用水

曽代用水

頼山陽と村瀬藤城の詩碑

頼山陽と村瀬藤城の詩碑

-- 歴史遺産が集まっていますね。

松久会頭 美濃市は歴史の宝庫ではないかと思っています。ぜひ、みなさんに来ていただきたい。古い町家を利用しながら、新しい目線を取り入れたお店もオープンしています。新鮮で、面白いなと感じています。

-- 観光客の長時間滞在を考えると、宿泊施設についてはいかがでしょうか。

松久会頭 古民家ホテルなど、新規の宿泊施設がいくつもオープンしています。例えば、「NIPPONIA 美濃 商家町」は松久家の分家の別宅を改装したホテルです。部屋の名前に「残月」「綾錦」「可祝」などとつけていますが、これらは障子の銘柄から名付けられました。倉庫を改修したカフェ併設のギャラリーもあり、ここで美濃紙の文化を感じて欲しいと思います。

NIPPONIA 美濃 商家町

NIPPONIA 美濃 商家町

NIPPONIA 美濃 商家町

NIPPONIA 美濃 商家町

NIPPONIA 美濃 商家町のギャラリー

NIPPONIA 美濃 商家町のギャラリー

新しいアイデアでこれからの美濃のまちを作る

-- これからの美濃市のまちづくりについて、美濃商工会議所さんはどのように活動されていくのでしょうか。

松久会頭 これまでに観光案内ツールとして、美濃商工会議所発行の観光ガイドブックを発行しています。飲食店の紹介だけでなく、見どころも合わせて紹介し、日本語版、英語版を各所に置いて利用していただいています。2022年4月には、新しい店舗の掲載とエリアを拡大した改訂版を発行しました。
先代の会頭が取り組んだ観光アプリもあり、イベントとして年に数回、脱出ラリーを開催してじっくり美濃のまちを見ていただくきっかけを作っています。今後は文化体験なども取り入れて、滞在型の観光を提案していきたいと思います。
美濃商工会議所では、若い方や市外からみえた方が集まり、「中心市街地を元気にしよう」というテーマで3年ほど前からワークショップを行っています。アイデアが豊富に出されれているので、これから具体的な形にしていくところです。

美濃町観光ガイドブック「ののの」

美濃町観光ガイドブック「ののの」

中心市街地活性化のワークショップ

中心市街地活性化のワークショップ

-- 若い方へメッセージをいただけますか。

松久会頭 なんといっても美濃市に来ていただきたい。見どころを回るだけでも興味を持っていただけると思います。美濃和紙を中心に、さまざまな歴史を感じて、美濃市を知っていただければと思います。

■美濃商工会議所
〒501-3743 岐阜県美濃市上条78-7
TEL.0575-33-2168
FAX.0575-33-3183