岐阜愛をもっと岐阜へ
若い方たちが心健やかに暮らせる岐阜を願う

東京岐阜県人会
会長 吉村 泰典さん
(新百合ヶ丘総合病院 名誉院長
慶應義塾大学名誉教授
一般社団法人 吉村やすのり生命(いのち)の環境研究所 代表理事)

医師の一人として、岐阜県の医療環境整備に貢献

-- 岐阜で過ごされていた子どもの頃について教えてください。

吉村会長 私は岐阜市生まれですが、両親共働きの家だったので1歳から3歳くらいまで当時の山県郡伊自良村にいる祖母の家に預けられていました。野原というか山の中、田畑と山しかないようなところを歩き回って育ちました。そして、岐阜市に戻り、木之本小学校(現:徹明さくら小学校)、本荘中学校、岐阜高校と進学しますが、全て自宅から徒歩10分圏内にあったので、毎日歩いて通っていたという特徴のある子ども時代でした。

-- その頃の岐阜の様子は覚えていらっしゃいますか。

吉村会長 その頃の小学校は1学年に6クラス、中学校は全校3千人もいるようなマンモス校で、岐阜市内でも子どもが最も多かった地域だったのではないでしょうか。柳ヶ瀬商店街へ行くとよく言われるように、行き交う人の肩がぶつかり合うような混雑した状況で、岐阜は大きな都市でした。それゆえに、ふるさとに対する誇りをもちながら東京の大学へ行きました。

-- 大学で医学部へ進学され、医師になられて良かったと思われることを教えてください。

吉村会長 戦後間もない頃の大学は工学部が脚光を浴びていた時代です。父は日本電信電話公社(現:NTT)、母は洋裁学校を経営していましたので、私が医者になりたいということは一切、考えていなかったようで、医学部への進学を渋々、許可してくれました。

私は産婦人科医なのですが、退院される方に「おめでとう」と言えるのは非常に良かった。また、第二次安倍内閣が始まってからすぐの2013年から、安倍さんが内閣総理大臣を退任されるまでの76ヶ月間、内閣官房参与として少子化対策・子育て支援を担当しました。それまでの産婦人科医の経験をいかすことができ、本当に良かったと思っています。2014年に慶應義塾大学の教授を退任しましたが、引き続き国の仕事に携わらせていただいたことで、大勢の幅広い分野の方々とお会いすることができました。

-- 医師として岐阜県の政策にも携わられていたのでしょうか。

吉村会長 その頃から岐阜県、特に飛騨地方では周産期医療を受けられる産院が減っている状況をふまえ、周産期医療の環境整備にも力を入れました。また、日本産科婦人科学会の理事長も務めていましたから、名古屋大学や三重大学と協同して、岐阜の医療をどのように守っていくのか、ということにも取り組みました。東京岐阜県人会の会長であることも含め、岐阜のお役に立てたことは大変、良かったと思います。

女性と子どもを大切にする社会を岐阜県から

-- 東京でのご活躍と同時に、岐阜のことも気にかけてくださるのは嬉しいことです。

吉村会長 教授時代はなかなか岐阜に帰ることができませんでしたが、今はできる限り岐阜へ帰るようにして、岐阜をどうやってさらに良くしていこうか考えています。悲しいのは、子どもの頃に見た柳ヶ瀬の賑わいが見られなくなってしまったように、岐阜も少子化の傾向があること。少子化対策に携わっている私の視点からみると、少子化の根源は若年女性の流出ではないかと考えています。女性がいなくなると出生率が上がらない。出生率が上がらなければ、周産期医療に対応できる病院も減少します。そうすると、地方は消滅してしまうのではないでしょうか。

-- 具体的にはどのような取り組みが必要だと思われますか。

吉村会長 女性が流出しないように、きちんと女性の雇用をつくることです。女性が活躍している国は出生率が高いんですよ。また、全国的にみると岡山県奈義町は2019年の出生率が2.95、兵庫県明石市も子育て対策をして関西地区の中では出生率が上がっている、こういった都市もあるのです。

少子化対策に必要なのは、社会と企業と男性の意識変革です。今、企業と男性の意識は変化してきていますが、社会はまだ変わっていません。私が少子化対策・子育て支援を担当し始めた時に提案した幼児教育無償化などがやっと制度化されてきました。国民一人一人の意識改革が必要です。その意識改革を岐阜県から変えていきましょう、と考えています。

若い方のアイデアで岐阜の良さをいかして欲しい

-- 吉村会長は、岐阜の良さはどんなところにあると思われますか。

吉村会長 高山も飛騨も本当に素晴らしい、最近、私は岐阜県内で定宿にしているところがあって、春と秋は白川郷近くの温泉で、夏は下呂市の濁河温泉で宿泊をしています。岐阜市も金華山と長良川が校歌に入っていない学校はないのではないか、というぐらい風光明媚で素晴らしいところだと思います。私も各地へ出かけますが、こんなに素晴らしいところはありません。このような美しい景色があるところが岐阜の良さではないでしょうか。

-- 先ほど、時間があれば岐阜に帰ってみえるとおっしゃっていましたね。

吉村会長 岐阜は東京から新幹線ですぐ帰ってくることができる、アクセスも良い県です。東京だけでなく、九州へ行くにも新幹線で行けますし、地理的に良い。野菜も新鮮で豊富、物価が安くて、便利に生活ができます。だからこそ、行政にはがんばってもらいたい。ソーシャルキャピタルが生まれれば雇用もできますし、観光でPRすることもできる。岐阜の良さを活用しながら若い方の目線で取り組んでもらうのが良いと思います。

-- 今、岐阜での取り組みで気になることがあれば教えてください。

吉村会長 岐阜県飛騨市に開校を予定し、宮田裕章さんが学長候補に挙がっている大学、(仮称)Co-Innovation University(飛騨高山大学)はぜひ、成功させていただきたい。発起人の飛騨高山大学設立基金代表理事の井上博成さんは30代という若さ。おじいさんが宮大工だったそうで、また、飛騨高山の資源を活かした小水力発電などの研究をしながら、大学を設立しようとする発想は若い方ならでは。岐阜を変えてくれると期待をしています。

-- ぜひ、各地で活躍されている岐阜県人のみなさんにメッセージをいただけますでしょうか。

吉村会長 若い方達が心健やかに子どもを産んで、育てられるような岐阜になることを私は望んでいます。次世代に対する責務があることを私たちは認識すべきだとも思っています。岐阜のために何ができるか。東京で活躍されている岐阜の方にはその力をぜひ、岐阜に還元していただきたい。私たちは岐阜からの恩恵を受けています。そういったものをいかに若い人たちに返せるかが大切だと思います。