INTERVIEW
Leader's Voice
日本初!の「学校作業療法室」
実践例を集めた書籍も出版
Interview
都竹 淳也 市長
思春期の心と身体の健康を専門医が検診
―― 最近の飛騨市の動きについて教えてください。
都竹市長 まず「ヒダ×10代ケンシン」について話したいと思います。どこの学校も検診はありますが、心と身体を見る検診はないです。アメリカでは思春期検診が社会実装されています。思春期は心も身体も大きく変化する時期で、大人になってからトラブルにつながる芽のようなものがあるケースが多いです。そこで思春期を対象に心と身体の健康全体を小児科医で精神科医の阪下和美先生が見てくれることになりました。
当市は地域生活安心支援センター「ふらっと」で、子どもの発達支援をしてきました。その中で、思春期の時にきちんとサポートを受けていれば、大人になって悩まないで済んだかもしれないという事案が結構ありました。そこで、阪下先生から提案があって予算を組みました。これを社会実装するのは、全国初になります。
―― 実績はいかがですか?
都竹市長 7月から募集を始めたのですが、すでに30人ぐらいの実績があります。人間関係や、自我が育つことによって、小学生時代の自分との変化に悩んで引きこもったり、不登校になるケースもあります。そうした悩みについて、先生のサポートを受けることで、適切な支援を受けることができるようになります。
―― この思春期検診の元になっているのが、「ふらっと」なのですね。
都竹市長 はい。当市として発達系で一番力を入れているところで、9月にはこれまでの取り組みをまとめた『すべての小中学校に「学校作業療法室」飛騨市の挑戦が未来を照らす」という本も出版されました。
私が市長に就任したとき、発達やコミュニケーションに障がいがある子や特性が強い子を持つお母さんたちが市長室に来て、「学校の先生をなんとかしてほしい」と言いました。集団行動になじめなかったりして、先生としても対処が難しい。それでも学校に行きますから、トラブルが起きます。その都度、先生と話し合って、うまく収まったとしても人事異動があると、またゼロからのスタートになります。収まればいいけれど、理解が進まなくて対応できない先生もいますから、お母さんたちとしては「学校の体制をなんとかしてほしい」ということで、私に相談してきたというわけです。
―― とても難しい問題ですね。
都竹市長 はい。その時、私は「学校に頼るのは無理です。先生は専門家ではないです。その代わり、学年が変わったり、小学校から中学校へ上がるタイミングで外からサポートが入る体制を組みます。外の機関なら、先生が変わってもサポートできます。そうした体制を整えるよう考えますから、少し待っていてください」という話をしました。
当時、発達支援センターがありました。これはどこの市町村にもあって、発達障害や特性が強い子の支援をしますが、センター長を福祉課の課長が兼ねていて、ほかに事務職員と保育士が1人ずつという体制でした。一生懸命やってくれていますが、これではダメだと思いました。まず責任者を決めようと思って、ちょうど飛騨こども相談センター長が退職するタイミングだったので、その方に責任者になってもらい、そこから発達支援がきちんとスタートすることになりました。
個別の子どもごとにサポートブックを作って、みんなで情報共有するところからスタートしました。でも学校の問題ですから学校に介入しないといけないです。ところが学校の介入はとてもハードルが高いです。こちらが思うタイミングでサポートに入れないので、教員OBに学校との橋渡し役になってもらって進めました。
作業療法士の視点で見方を変える
―― いろいろ試行錯誤しながら進めたわけですね。
都竹市長 はい。次は具体の答えをどのように出すかです。以前に比べればスタッフは充実しましたが、それでも専門家ではありません。そこで大垣でHABILISという発達支援のNPO法人を運営していた山口さんに講演してもらったり、勉強会を開催してもらい、最終的には実際に子どもの見立てをしてもらうなど、手伝ってもらうことになりました。
ある時、学校を見てもらいました。集団行動になじめなかったり、ずっと座っていられない子がいます。通常はADHDだと言われて終わりますが、山口さんの見立ては全然違います。すると、学校の先生方から「山口さんはすごい。どう対応したらいいかわからないのに、的確な対応法をアドバイスしてくれるのでとても助かります」という声が多く聞かれました。そこで、山口さんに本格的に入ってもらうようになりました。すると、いろいろなことが見えてきました。
―― どのようなことが見えてきましたか?
都竹市長 大人との境目の話があります。あるいは高校に行ったけれど、やめてしまったからどうしようという話があります。さらに子どもの話と思って相談に乗っていたけれど、親の話だというケースが意外に多いことも見えてきました。子どもの発達支援だけだと思っていてはいけない。すべての世代の悩みを引き受ければ、抜け落ちる人はなくなると考えて、やり方を変えました。ありとあらゆる困りごとをすべて引き受けて相談に乗る体制を整えるという考えで、令和3年に「ふらっと」がスタートしました。去年は新規で417件の相談がありました。発達障害の子どものほか、情緒の不安、人間関係、家計など大人からの相談もたくさん受けています。
―― 具体的な相談内容についても教えてください。
都竹市長 運動神経がとてもよくてサッカーを始めました。でも試合で活躍できない。サッカーでつまずいて不登校になりかけているという相談がありました。よく話を聞いてみると、試合になるとパフォーマンスが落ちて、監督から叱られてモチベーションが落ちいました。普通なら、「もっと練習しなさい」という話になるでしょう。でも過去の成育履歴を聞くと、いろいろなことがわかってきます。体を動かすことは得意だけれど、色や順番を覚えることが苦手だとわかりました。そこで発達検査をしたら、空間把握が苦手だとわかりました。自分が動いていると、人が動いているフォーメーションが理解できないことが、サッカーが苦手な原因だとわかりました。
それでも本人は、サッカーがしたいと言いました。そこで、盤上で人の動きを確認して、空間のイメージをするようにして、監督とも共有しました。自分の特性がわかったことで、苦手意識がなくなり、気が楽になって頑張れるようになりました。サッカーが落ち込むことで勉強も落ち込んでいたけれど、勉強も頑張れるようになって、学校への行き渋りが解消されました。
―― ほかにも具体事例はありますか?
都竹市長 書くことがとても苦手で、宿題をやりたがらない。ゲームに逃げるようになった子がいました。家庭はどうかというと、父親は厳しい人で「千回書けばいいんだ」と言って書かせます。母親は「父親が厳しいから子どもが勉強をしなくなった」と言います。父と母で対立して、夫婦喧嘩が続いて、それも子どもに影響して、ますます勉強をしたがらなくなっていました。
そこで作業療法士が入ります。すべての人間活動は作業です。子どもの見立てをすると、カーブのある字が苦手だとわかりました。ひらがなはカーブの字です。そこで、アプリを使ってリズムよく書いていくと、視覚的に理解できるようになって字が書けるようになりました。
ただ、もう一つ、両親の問題を解決する必要があります。両親の評価をしました。父親は、ほどほどができない人です。100でないと気が済まない、徹底的にやる人です。母親は低登録といって、反応が低い人です。だから夫婦としてはうまくいっているけれど、子どもの問題が出たときに喧嘩になりました。そこで、双方に認識してもらいます。母親は低登録だけれど、見方を変えればおおらかで父親にはないよさがあります。父親は極端ではあるけれど、まじめだというプラスの認識に変えてもらいます。それで夫婦喧嘩が減り、子どもも気が楽になって、読み書きが進むようになりました。
すべての世代の悩みに寄り添う
―― 見方を変えると、全然違う景色になるのですね。
都竹市長 はい。1歳半の子どもと視線が合わないという相談がありました。ねがえりも、ハイハイも順調だったけれど、親にも関心を示さないので相談に来ました。機関車トーマスを並べることは、とても好きです。母親は自分の育て方が悪かったのではないかと、子育ての自信をなくしています。
トーマスを使えば楽しく遊べることはわかりました。そこで自分もトーマスになって一緒に遊べば、家族が明るくなるのではないかと考え、母親がトーマスのシールを額に貼って遊ぶと、母親を見てゲラゲラ笑います。すると、自分を注目してくれる中で、母親の不安が解消されました。
もう一つのケースは、動き回って落ち着かない。母親は「じっとしなさい」と怒り続けています。母親は元々、キャリアウーマンで恥ずかしくない子どもにしたいと思っているので、困っているという相談がありました。そこで見立てを変えます。多動な子は活発です。「〇〇してきて」と言うと、パッと動きます。何かを頼むとすぐに動く活発な子だというよさがあります。そこを生かしましょうと作業療法士はアドバイスします。次に、この子は将来どうなってほしいかを考えます。活発な特性を生かして、自分でどんどん思いついて起業してほしいというように見方を変えます。「あれやって」「これやって」と頼んでいるうちに、どんどん興味を広げてほしいと考えるようになり、ガミガミ怒ることはなくなりました。
―― 作業療法士という専門家が入ることで、アプローチの方法が大きく変わってきますね。
都竹市長 はい。とても効果が出てきたので、今年度から学校現場にも導入を始めました。作業療法にCO-OPというアプローチがあります。なりたい自分を描いて、そのための作戦を考えてやってみる。うまくいかなかったら、自分が悪かったのではなく、作戦が悪かったのだから作戦を見直す。その作戦を立てるとき、作業療法士がアドバイスします。
例えば、繰り上がり、繰り下がりの筆算が苦手でできるようになりたい子がいます。先生が教えるのではなく、自分で考えさせます。通常のやり方ではなく、全然違うところに丸を書いてやってみると、「これなら私もできる」ということで、自分で克服します。
これまでの学校教育は「漢字をきれいに書く」という目標があって、あとは「頑張る」です。「頑張る」ではなく、「きれいに書くためにはどうするか」を書いて、うまくいかなかったら、作戦を見直すということをグルグルやるという手法です。これをすべての学校でやることによって、それぞれの課題克服ができて、不登校になっている子を救えると思っています。 最近は、不登校は無理に行かさなくてもいいという考え方が増えていますが、やはり学校に行きたいと思う子は多いと思います。学校に行ってほしいと思う親も多いと思います。すべてがうまくいくわけではありませんが、特性を理解することでうまくいくケースが相当あります。医療や福祉が学校の教育をサポートする形で入っていけば変わっていくと思います。しかも、この手法をありとあらゆる場面に導入していけば、大人でも改善されます。学校現場に入るのは全国でも初めてのことで、大変注目を集めていますが、今や子どもだけの問題だけではありません。冒頭にも話しましたが、本も出版されましたので、ぜひ多くの方に手に取って読んでいただければと思います。
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